9. 自己の一貫性と正当化が引き起こす錯覚
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9-1. 一貫性を求める心が生み出す錯覚 心理的な慣性の法則
認知的不協和理論(フェスティンガー):心の中に相入れない複数の認知要素が生じると、不快な緊張状態(不協和)が引き起こされ、人はそれを低減するように動機づけられる。 不協和の低減のための方略:以下、タバコと肺がんを例にする
認知要素の変更:「タバコをやめる」
新しい協和的な要素の付加:「愛煙家でもとても長生きをしている人がいる」
要素の重要性の操作:タバコ有害論の欠陥を探す。「排気ガスの方がはるかに危険」
フェスティンガーはより具体的な方略として知覚の歪みを含む認知的歪曲を挙げている
適度な喫煙者であって吸いすぎていないという主観的な解釈
「適度な」という表現が曖昧で多義性を持つことで歪曲を可能とする
こうした過程はほぼ意識せずに自動的に行われ、ものの考え方が一方向に偏るという点で錯覚と似ている。
不協和の動機付けが高まるのは、認知要素間の矛盾だけでなく、どちらかの要素に自己が深いコミットメントを持っており、自己評価に強い脅威がもたらされる場合だと考えられている。
日本人の場合はここに興味深い事情がある。後述。
終末予言が外れたカルト教団:かえって信者たちの求心力が強まり、信仰と不況の情熱が高まるという現象が数多く確認されてきた。
特定の行為を制止させるために厳罰をもってすると自制的な行動が内面化されずにかえってその魅力が高まってしまう
いじめ現象:自分に全く意図はなくとも相手に害を与えてしまったり、害が与えらえるのを見過ごしてしまった場合、その相手の魅力は低く感じられるようになる いい人を傷つけたのではなく、相手は傷つけられても仕方ない人だったという評価のバイアスを生じさせることによって不協和は低減される
9-2. 正当化を求めて錯覚が起こる
入会儀礼効果:その対象と関わるために厳しい経験を経たものがその対象を高く歪めて評価したり愛着を抱いてしまう現象 学習心理学では苦痛と関連づけられた対象は回避されるというのが基本的な考え方だが、認知的不協和理論ではそれが当てはまらない 入会儀礼効果はカルト・マインドコントロールで効果的に利用される
不協和を高める重要な要素:自分の意志によって自発的に行われること(もしくはそう思い込むこと)、その結果他人を巻き込むなど深い関与をしてしまうこと
一貫性:一度相手の要請に応じたという事実は要請には応じたくない抵抗感との不協和を生じる フットインザドアと同様。
9-3. 認知的不協和理論の応用とその後
認知的不協和を直接扱った研究は減少
曖昧な概念を含んでいたこと
研究手続きが不適切であったり厳密さや予測力にかけていた
自己の一貫性や正当化への動機付けという理論のエッセンスは幅広い研究領域の中で現在も活かされている
関与拡大現象:自分の意思決定を正当化しようという動機付けが非合理的な意思決定や連鎖的な失敗につながる サンクコスト(埋没費用)効果:過去に払ってしまって取り戻すことができないコストに影響を受けて将来に関する意思決定が影響を受ける現象 認知的不協和の文化差
日本で行われた実験では認知的不協和が明確に見られない。(北山ら) 日本人にとって選択が最善ではないかもしれないということが自己への脅威とならない可能性
他者の存在を意識させた条件では欧米人と同じく不協和解消のための評価の変化が見られた
平均的な学生の評価を考えさせる、実験室内に人の目が図案化されたポスターを貼る
欧米人:自分が最善の選択をできなかった→自分自身の有能感や効力感への脅威
日本人:自己観はより関係志向的→他者から見た自分の選択が不適切であることが脅威